HAPPY HALLOWEEN!!


ウール、ケイト、ポト(傀儡師ウール君と不愉快な仲間たち)


■壁紙
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ファクトリー・サッドククースの面子です。
ネタ帳とか私的な落書きには書き散らしてるんですけど、
ちゃんとした作品として出したことはあまりないですね。
以後、お見知りおきを。

絵とか壁紙とかはお持ち帰りフリーです。
お気に召したらつれて帰ってやってください^v^
(あ、二次配布はノーテンキューで)



ファクトリー・サッドククースの日常 〜執事人形編〜
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ポト・アクリエルは今日も規則正しく茶葉を計量していた。彼の職務は専らそれだと言わんばかりに、丁寧に。実際はその手順に千分の一程度の狂いがあったとしても、彼の主人には分かるまい。しかし、ポトは定められたタイミングを億分の一も狂わせず、正確に茶を淹れた。
今日は10月末日、ハロウィンである。街は浮つき、またケイトもいつも以上に浮ついていた。その浮ついたケイトが我が工房も何かをやるべきだと提案し、主人であるウール・サッドククーはいつも通りに面倒くさそうに、適当にやっとけと返した。
かくして工房のあちこちに、ポトを同伴して買い物に出かけたケイトが手に入れてきた様々なハロウィングッズ――正確には荷物を持ったのはポトであったが――橙色のカボチャやキャンドル、蝙蝠の切り絵などが飾られる運びとなった。
賑々しい復活祭やクリスマス、バレンタインなどの類の行事が通り過ぎるたび、ケイトのいたずらに苦い顔をしていたウールも、どうも今回は別らしい。単に黒が多いから落ち着くだけだろうな、とポト・アクリエルは誰ともなく思った。工房の闇に映えるランタンは、実際クリスマスのオーナメントよりは遥かに似つかわしかった。


「ポト、ポト!これをかぶるの!!」
けたたましいケイトがやってきた。実際の娼婦というのもこんなにやかましいのだろうか、それとも単に彼女に問題があるだけなのだろうか。本物の娼婦と会ったことも、会う予定もないポトには分からなかった。
「なんですか」
「朝、買っておいたの。仮装用の帽子よ」
「またそんな無駄遣いを……」
眼窩の球体を巡らせた先には半裸のケイトが帽子を差し出していた。半裸の、という表現は妥当ではないかもしれない。4/5裸くらいが丁度いい。
「ばかですか、あなた」
「ばかじゃないもん!!」
いつもの数倍呆れ果てた声を聞いて、ケイトが憤慨する。カールした髪に埋もれた星屑がきらきらと輝きながら、侮辱に対する怒りの表明を手助けしていた。
「世間様のどこにそんな格好のばかじゃない人がいるんです」
「うっわ、さりげにあたし以外の人までばかにした……!!」
ポトはもう取り合わずに、茶を淹れることに専念した。今日のティータイムは朝のハロウィンフェアで手に入れた、キャラメル風味でカボチャ色の茶葉を使ったロイヤルミルクティーと、ケイトが無理やりに買ったカボチャのプディングだ。ウールの口に合うかどうか、とポトは懸念した。


「別に悪かない」
「そうですか」
素っ気無い会話は毎度おなじみだ。別段、何を褒めろというでもないが、感想くらいは欲しいかなとポト・アクリエルは思った。ウールは新調したばかりの椅子に腰掛け、ポトの持参したお茶とプディングを黙々と消費していた。茶菓子が甘いせいだろうか、別の理由だろうか、ケイトが仕込んだ媚薬入りの砂糖には手を付けなかった。
だしぬけに、ウール・サッドククーが言う。
「で、お前は頭に何を乗っけてるんだ」
「不本意です。ケイトが買ってきたから」
「気をつけろよ。重くなって頭がまた落ちるぞ」
「今日は一度も落ちておりません」
自分から始めた話題のくせに、ふうんと興味のなさそうな声で返事をし、ウールは窓の外を眺めた。市街地から離れた場所にある工房と屋敷からでも、午後の賑わいが見てとれた。ポトはウールの足元を、それと悟られないよう眺めた。出来の良い義足に、仕立ての乗馬ブーツ。しかし車椅子の移動を厭う主人は、今日も眺めるだけで外出することはないのだろうなと思った。
「記念撮影でもするか」
「はあ?」
頑固で偏屈な主人が言い出すことは大概、頓狂であるし、それ故に天才だと認めてはいるが、記念撮影とは恐れ入った。ポトは瞬間的に、工房と屋敷すべての地図を呼び出し、カメラの保管場所をさぐった。
「やったぁ!ほらねポト、マスターもついにあたしの色香に」
「お前じゃ勃たんな」
一蹴されたケイトは、壁によりかかって厭世の表情を浮かべていたが(どのようにすればそんな複雑な表情を作れるのか、球の目とシリコンゴムの口しかないポトには分からない)、気を取り直してウールの椅子の下に這って行った。
「あたし、今日からここに住むわ。椅子の下の妖精なの」
「妖精なんてガラじゃないだろう」
ウールはウールでケイトの頭の弱い発言には慣れているので、適度に相手をしてやっている。カメラを取りにゆく間に主人が襲われなければいいが、とポトは気をもみながら部屋を後にした。


「トリックオアトリート!!」
屋敷の玄関のチャイムが鳴った。撮影後のカメラを片付けに行く途中のポトは、玄関に立ち寄ってドアを開く。そこには夕暮れの町並みを背景に、小さなモンスターが首を揃えて並んでいた。シーツを割いて紅いペンキをぶちまけたもの、顔に色を塗って縫い目とボルトを付けたもの、耳があったり羽が生えていたり何だかよく解らないちゃんぽんになっているもの。
「すげー、オートマータだ」
「俺初めてみた」
「ねえ、お菓子ちょうだいよ。お菓子」
口々に勝手なことを言いながら、それぞれが手を差し出した。ポトは今度はキッチンの情報を呼び出し、子供に持たせるのに適当なキャンディを検索した。
「ちょっと待って下さい。取りに行きますから」
「逃げる気だぜ、こいつ」
「逃がすかぁ!」
「覚悟!」
ポトが奥へ引っ込もうとすると、三人組の少年たちはポトを追って手を伸ばした。逃げられる、と判断したわけではなく、単に血気盛んな年頃であり、オートマータに好奇心をそそられただけだ。ポトにしてみればいい迷惑で、しばらく立ち尽くし触られるままにされていた。
「すっげーっ、関節逆にも動くぜ」
「何で顔だけ人間じゃないんだ?」
「ち○ことかついてんのかなぁ?」
「あるわけないじゃないですか、そんなもの」
小さい手にあちこちをべたべたと触られるのは、多少不快だ。やるべき仕事もまだ残っている。ポトは奥の手を発動することにした。
「髪、ねーちゃんの人形よりキレーだぜ」
「どうやって繋げてんのかな……あっ!」
ゴトリ。
鈍い音を立ててポトの頭部が落下した。少年は仰天して息も止まっている。隣の家のガラス窓をサッカーボールで割り、ついでに中に居た怖い老人の頭にぶち当てたような顔つきで、三人は後ずさり、そのまま一目散に逃げて行った。ポト(の体)はややあってから首を拾い上げ、埃を払ってから頚部を接続し直した。いたずらされた分はたっぷり返してやったと思われるので、ポトは少し気が晴れた。



こつこつと石の切り出し音が聞こえる工房から漏れる灯りが、今日は少し黄色い。ポト・アクリエルはそれを眺めながら洗いものをした。ケイトは既に休んでいる。自分は主人が眠ってからにしようかと思っていたが、この調子だと朝まで続きそうだ。
最後の食器を拭き終え、戸棚に仕舞ったら、ポトの一日は終わった。